ピリオドを決めつけられた、暗褐色の世界。
ゴミ捨て場とはそういうもので、私はもう殆どこれに等しい。
終わっていて、もう直ぐに消え去る。死とはそんなものであり、こんなものばかりを私を好んでくれたもの達に与え続けてきたことは慚愧に堪えないことだ。
これまで口が裂けてもいえなかったけれど、本当なら私は変わりたかったのに。
「私は悪じゃなくって、皆が幸せなら私も幸せっていうそんな当たり前の生きた人間になりたかった」
だが、そんな優しさなんてトイレの花子さんのお話には望まれない。
少年少女達に向けてただただ酷く残酷な死ばかりを羅列させる日々。そんなものなんて、生きている意味なんて本当はない筈だ。
高子に初めて出会った日に言われた通りに、面白くないなら無くなった方がいいに決まっていた。
「でも、諦められなかった、なぁ……」
しかし、終わりに届くことなくトイレの花子さんの噂が無かったことにだけはされたくなかったのだ。そればかりはゴメンだ。
だって、私は殺した彼らを知っている。無念の遺言を片時も忘れたことはなかった。
あんなに可愛くて、愛されるべきだった全て。夢に希望に燃えていたそれらを焚べて私はホラーとして生じていて。
「あんなに殺したから、私は生きなければならない」
だから、トイレの花子さんなんてなかったことにされて、一時的に悪意たちのゴミ捨て場に落とされたところで、私は挫けることもなかった。
私はその日の内にメジャーだった新しい怪異、口裂け女と同期するために口の端をお気に入りの鋏で切り裂くこととなる。
そして、忘れもしない三丁目の辻にて私はあの子の首を引き裂き、成り代わった。
そのことにだって、今まで私は後悔したことなんてなかったのだけれども。
「死ぬんだ」
紆余曲折の後に、私はこの場にて人のように死ぬ。
最期に愛されたことを誇りにして、消え去るのが当然。
何しろ、既に両の腕なく臓腑は丸出し、顔なんて切創の集合でもうどこまでが無事なのかも分からない程。
愛を守れないだろうことなんて、忘れてもいいくらいに満身創痍。きっと後一息で飛んでいく命だったのだろうけれど。
「くひひ」
でも、この百点満点の答案より憎たらしい笑顔が許せなかったから。
もう人のように生きることなんて、止めだ。
「ごめんね。私これまで私に嘘ついてたの」
「ひ、ひ? ……ひっ!」
そして僅かな命すら嘘だったと、切り裂く少女の命に亡くなった手で私はむんずと触れる。
冷たいでしょう、恐ろしいでしょう、悲鳴をあげたくもなるでしょうね。
ああ、幾らキャラクター化しようとも、切り裂ける程度に擬人化しようとも。
根本的に花子さんって幽霊なのよね。
だからこそ私は生きたかったし、そのフリをし続けたかったのだけれども。
「私は死んでいて、だから殺せないわよ?」
「は、離せ、離して……っ! 七恵っ!」
ああ、切り裂きジャックの心の奥底で、僅かにあの日太陽のように語っていた少女の想いは生きていたみたいだ。
末期に至って裏切られても彼女を信じるなんてそれはとっても美しい友情で、でも。
「だーめ」
私は、あの子のために貴女を地獄に一緒に連れて行く。
そう。消えゆく私達を見つめて肘で這いゆくテケテケ未満な華子。
「ハナコっ!」
終に認めた死に去りゆく私は貴女に愛しているよとすら言えないけれど。
「――――ありがとう!」
私のハッピーエンドを記し損ねた訳知り顔に、ざまあみろとだけは書き終えて。
口が裂けてもいえないことばは胸に秘めたまま、白の余韻に私は消える。
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