☆ルート第九話 これ別に伏線じゃないっす

いいこちゃん2 いいこ・ざ・ろっく()

本当に、スマホって便利過ぎる。
コレなかった頃の通信原始人さん達はどうやって連絡と情報収集を行ってたのかなって不思議に思ってしまうくらいだ。

いやまあ実際は、伝書鳩やら図書館とかふざけなくてもテレビや黒電話みたいに方法よりどりみどりだったみたいとは知っているけどさ。
またその頃の不確かさが生んだ花子さんとかみたいなオバケさん達だって今から見たら随分と面白いもんで、不便も良きかなとは思わなくもない。

とはいえ。
それでも今日を生きるあたしさんにまやかしで遊んでる暇はなければ、好きピと端末一つで大いに近づけるなんてたまんねえな、ってなる。
そんな今時なあたしはだがしかし、今高鳴る胸元を無視して無駄に考えちゃう頭を捏ねくり回すことになってしまった。

「ついさっきバンドに加入することになったって……えぇ? それで今ファミレスでタイマンで歓迎会兼反省会中?」
『う、うん……さっきまで、私「STARRY」っていうライブハウスでギター弾いてたんだけど……』

いや、ホントどういうことだってば。ひとりちゃんが引っ込み思案って設定何処に行ったのかっていうアクティブ情報の洪水に、あたしは混乱。
しかし無駄に賢しい指先は意識の外でそのすたーりーなるライブハウスを便利な通話中の手元の端末で検索しだす。
するとなんと、ひとりさんの仰るとおりに下北沢駅あたりでヒット。これにはあたしもびっくりさんだったのでした。

「マジか……本当に「STARRY」っていうライブハウスシモキタに存在しましたよ……むむ……ひとりちゃんの妄想黒歴史現在進行中かと思いきや、これは真実の可能性が今年の横浜優勝くらいには存在してる?」
『直子ちゃん、横浜は絶対また優勝するよ! だから私に起きたことも間違いないと思って』
「おうっ、ひとりちゃんの強火ハマっ子なところが出ちまってら。まあ、ならちょっとその伊地知先輩とかいう公園まで野良ギター探ししてたっていうワンダフォーなお方と交換してもらえるかな?」
『あ。今スピーカーに切り替えるね……』

あたしが半信半疑で、今年は阪神に横浜勝てる気がしねえんだよなとか思ってたところ、なんかガタガタ。
うっさいひとりちゃんの下手っぴ操作にこっそり萌えてると、するともっとうっさい元気な声が耳元で可愛らしく響く。

『もしもーし! あはは。ぼっちちゃん、信じてもらえるまで随分かかっちゃったねー。キミがぼっちちゃんの親友だっていう井伊ちゃん?』
「むむっ。そんな伊地知先輩はあたしの親友をぼっちだなんだの中々辛辣にくださるじゃあないですか。いいぞもっとやれ」
『どうしてそこで煽るの、直子ちゃん!?』
「このように、ひとりちゃんがいい声で鳴くものだから。ああ、これであたしのひとりちゃんツッコミ音声フォルダがまた潤うよー」
『直子ちゃん、そんな音声集めてなにしたいの!?』
「うーん……それはもう、何時かひとりちゃんがひとり漫才する時用かな? どんなボケでもこのバリエーションなら端末に指一つで十分に対応可!」
『そんな予定ないよ、直子ちゃん……』

こっそり一声で伊地知先輩の人畜無害どころか大天使さまで感じ取っちゃったあたしは、余裕でボケる。
それは、ぼっちちゃんだか何だか知らんけども、はじめてのあだ名で浮かれちゃってるひとりちゃんに対する嫉妬的意地悪じゃないんっだったらないんだからねっ。

そう。あたしはそんな地の文(←これ別に伏線じゃないっす)でツンデレしてしまうくらいに実は混乱してた。
いやあ、聞くにバンドの居心地すっごい良さそうだしこんなのあれでしょう。最早、ひとりちゃん運命引いちゃった感すらある。
あたしの頭の上でピヨコみたいに回転する謎の幻影ドリトスに、ノックダウン寸前。
ああ、あたしはひょっとしたらたったの一手ミスでひとりちゃん取られちゃうんじゃないかい?

まあ、そんなこと許さないけれど。

そう冷静にも考えるあたしを他所に、伊地知先輩とやらは苦笑しながらこう続ける。

『あはは……井伊ちゃんって、面白い子だね。それとごめんね。ぼっちちゃんっていうのはあたしの友達……ううん。キミたちみたいに親友の山田リョウって子が話聞く前に何となくで付けたら本人が喜んじゃって……』
「あー……そういや、前のバンドでもひとりちゃんってずっとひとりちゃん呼ばわりであだ名なかったもんね……なら多少おかしくても喜んじゃうか」
『理解されちゃってる……』

そして、後方保護者顔しながらあたしは、まだまだひとりちゃんの生態の第一人者であることを内心誇る。
ええ。その上その子めんこい人間みてえな面してますが、実際は突然身体を保てなくなったり、遊びに誘った流れるプールで水に溶けるなんて面倒してくれちゃったりするもんで。
あたしはこの後の伊地知先輩が被るだろう苦労を思い、こりゃ嫉妬してる場合じゃなくて対策メモ後で渡しとかないとと、気を取り直すのだった。

そして、下らない会話は一段落。説明の次は、指示のターン。
ひとりちゃんは、あたしを自分のお家にもう帰っていると考えてこうお願いするのだった。

『あの。それで遅くなっちゃうと思うから……家族にロインは送ったけれど、もし良かったらジミヘンの夜の散歩を直子ちゃんに頼めないかなって……』
「あー……それはちょっと無理ですなあ」
『どうして? 今お出かけ中?』
「まあ、その通りで、その上に……」

あのジミヘンちゃんの散歩とか垂涎なことひとりちゃんに頼まれたあたしは、それが実際無理なことに内心臍を噛んじゃう。
距離的にちょっと今からじゃ厳しいし、流石に夜散歩はふたりちゃんじゃ無理でも、後藤家のお父さんかお母さんがなんとかしてくれるとは思う。
まあ、以前嵐の日にあたしんちの前をひとりちゃんを引きずりながら横切ってたことを思うにやっぱりジミヘンちゃんは賢くても柴ちゃんだから、定期的な散歩なしっていかないからなあ。

そんな風に他所のこと考えてるのも実のところ現実逃避であれば、そもそもひとりちゃんとの通話にも実は気がそぞろだったり。
あたしは、今この場があたしんちどころか、ひとんちだったりすること。更にはお隣にべったりしてる子がいるのが、非情に気になってはいたのだけれども。
ああ彼女、堀江ちゃんはついに耐えられずにこう問っちゃった。

「電話、お、終わりそう?」
「楽しげな通話に随分スネちまった新しーお友達が隣に居ますもんで」
『ええっ!?』

なんだかありえないことを聞いてしまったかのように、驚くひとりちゃん。いいや、あたしだって驚きですよ、こんなこと。

「ま、だから今日はちょっと構ってあげられなくてごめんねー」
『そ、そうなんだ……』

消沈するひとりちゃん。
後ろで浮気だー、とかケラケラしちゃってる伊地知先輩ボイスを他所に、あたしが本当に浮気できちゃうような性分だったら良いのになあ、と困りながらべったりのシンお友だちを横目に見るのだった。

 

さあて。ひとりちゃんとのお電話も終わり方曖昧に、あたしも覚悟して彼女を見つめる。
「Ame」こと、堀江照ちゃんと。いや、未だに窮屈に顔のとこ窄まっちゃってるけど、苦しくないのかねえ、これ。
あたし的には、時にまろび出してくれるメカクレフェイスが素敵だと思うのだけれど。
そんなに、あの優しげなおとーさんおかーさんと比べると自信なくなっちゃうもんかなあ。百獣の王さんと親近感なあたしには、そこら辺の機微がよく分からない。

なんかピカピカしてるパソコンに、アーティスティックな壁紙。そしてめちゃ高いらしいゲーミングな椅子二つ。
こんな、何だか隠れ高級の最前線みたいな場所にずっといるのは変な気分。
取り敢えず、あたしはさっきしてもらったお誘いの言葉に改めて問いを返すのだった。

「で。堀江ちゃん……ホントにあたしなんかでいいの?」
「う、うん……私、は……直子、じゃなきゃ、ぃ、いや」
「そっかー……うむむ……」

悩めるのはもう、本心だ。
いや、確かにひとりちゃんのために上に行かなきゃなんないあたしにとっては、渡りに船ではある。
それ以上に一山幾らの初心者ギタリストが、これから売れそーな合成音声ソフトの達人である作曲者、「Ame」に選ばれるなんてそもそもこーえいか。
でも、だからこそちょっと不安になってしまうのは当然。

あたしなんか、なんて思う日が来るとは考えてなかったのだけれども、でもそれが今日なんだなとぼうと理解する。
酷く弱い全力であたしの手を握って離さない堀江ちゃんに、あたしはこう呟く。

「あたし、ちょっと歌えて弾けるだけだよ?」
「……この、曲……ひ、人が弾けるように、調整して、ない」
「あー……あたし知らずに人間超越しちゃってたかー」

そして、あたしは堀江ちゃんのここまでの執着の理由を察した。
立派なお家にお呼ばれされて歓待され、防音私室なんて豪華なとこに来たので折角だからとノリノリで耳コピした「Ame」の中でも速めな曲を弾いて歌っちゃったあたし。
それをどうもこのメカクレっ子は丸いお目々して見つめてたようだ。

いや、そりゃ人間離れしちゃってるあたしだから人が曲に聞こえるモノ程度なら真似出来ちゃうよ。
でも、確かに曲芸レベルをさっと弾けちゃうそんな自称初心者普通でなければ、そんなんがお仲間集めの大事な時にお友達面して寄ってきてるなら、ここまでの陰キャの子なら運命感じちゃってもおかしくないか。
あたしはため息を飲み込みんでから、こうとだけ言った。

「ま、確かにあたしは出来るかもよ。でも……楽しめるか、まだ不安」
「そ、それは……だ、だぃじょうぶ」
「おや? そうかなあ?」

顔を背けてカラフルに光るPCキーボードの上で指を踊らしてる堀江ちゃんって改めて、中々不思議な子だと思う。
弱気な割には夢を強く見ていて、孤独でありながら誰にも負けないものを持っている。

「そっか」

ああ。なるほどこれはちょっと昔のひとりちゃんに似ていて、だから愛らしいのかとあたしは改めて自心を理解するのだった。
そして、音楽に身を削るどっかで見たような天才の堀江ちゃんは、あたしに。

「わ、私と……一緒。絶対に、た、楽しいよ」

そう語った途端に少女の強張りはなくなり、パーカーの紐は緩んだ。
だからあたしはこの上なく上等な彼女のいたずらっぽい笑みをこの目に焼きつけられて。

「分かった。うん。一緒に頑張ろ」

そんな大きく動いた本心を言葉にして返してあげるしかなかったんだ。


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