口が裂けてもいえないことば 第九話 禁句 喜悦に富んだ人生などそうはない。 或いは空をも飛べずに泥を味わい、やがて己の不幸を感じなくなるまでが普遍であるかも知れなかった。 こと明津清太は、空を飛ぶトクベツ達に地べたを這いずる自分の足では追いつけないことに未だ慣れない不幸な青年である... 2023.11.26 口が裂けてもいえないことば
口が裂けてもいえないことば 第八話 手を握る 吉田美袋が物心ついてからはじめて切ったものは、折り紙だった。 赤い紙をぶきっちょに真っ二つ。切れ味の悪いハサミを右に左とさせながら切り裂いたそれの出来上がりは見事に歪んでいた。 これは先に保育園で先生が行っていたほど綺麗な切断面ではない。で... 2023.11.24 口が裂けてもいえないことば
口が裂けてもいえないことば 第七話 ばれちゃった 夕焼けに独りぼっちの影法師長く、地べたをなめる。 愉快げに蠢くその黒は、そのうちに街灯に紛れて消えるだろう。 だが、黄昏。色の階調の表現だけで手元のパレットを使い切ってしまいそうな、そんな空の多色の揺らめきの中、少女は微笑む。 まるで嘘のよ... 2023.11.24 口が裂けてもいえないことば
口が裂けてもいえないことば 第六話 零点満点 学生が学ぶのは正しいことである。そして、少年少女が愛されることは当然至極、望ましい。 ならば、足立華子という少女は優等である。彼女は小学校を学ぶだけの場所として通い続け、今はなき兄の分も過保護にも両親に愛された。 しかし、正解ばかりを続ける... 2023.11.23 口が裂けてもいえないことば
口が裂けてもいえないことば 第五話 ちょんぎる 「清太君、次はこっちー。この、あばれるもんがーを取ってみない?」 「もんがー? いや、うん。このぬいぐるみが何かかはよく分からないけれど、美袋が欲しいのっていうのは分かったよ。……よし」 騒々しい機械がクレジットを求めて光り輝く、そんな遊び... 2023.11.23 口が裂けてもいえないことば
口が裂けてもいえないことば 第四話 後悔 「はぁ……今日も、僕は僕だな……」 そんな言葉は吐息とともに、眼前の鏡を曇らせた。鏡面に映ったくせ毛の少年は、ま白い顔を憂いに染めたままに己を見つめている。 過去と今が本当に繋がっているのか、そう不安になるときが|明津《あかつ》|清太《せい... 2023.11.22 口が裂けてもいえないことば
口が裂けてもいえないことば 第三話 信じる 「止めなさい」 美袋と七恵。まるで友達が友達に手を差し伸ばしたかのように見えて、その実女の子が化け物崩れに拐かされている二人の姿。 見ていられない、そういう思いをマスク越しに表して、ハナコは七恵が美袋に手をかけるのを止めた。 「ふふふ、ハナ... 2023.11.22 口が裂けてもいえないことば
口が裂けてもいえないことば 第二話 異世界 世界が一つであると決めたものは、何か。おおよそ、それは焦点がひとつどころにしか合わない人間の在り来りから来たのだろう。 そう、ぼやけた視界の中で少女は思った。 「だから、私とは合わないんだ」 呟きながら喉元のチョーカーを弄る少女、足立|華子... 2023.11.21 口が裂けてもいえないことば
口が裂けてもいえないことば 第一話 雲天 吉田|美袋《みなぎ》にとって、この世は努めなければ綺麗に見えないものである。 そして、彼女にとって頑張るのなどわけないこと。嫌いからは目を背けて、好きには目を瞠る。見て見ぬ振りをすることで、大凡美袋の世界は美しかった。 くすんでいたって、光... 2023.11.21 口が裂けてもいえないことば
口が裂けてもいえないことば プロローグ ピリオド 「そういう、こと」 涙の代わりに微かな頬を伝って落ちる、それはまるで紅玉の軌跡。 そんな綺麗の滑りが、悪意の洞から溢れ出たものだなんて、とても思えない。それくらい、彼女の血は純だった。 いや、おどろおどろしさ、というものが五臓六腑にまで行き... 2023.11.20 口が裂けてもいえないことば