第三十話 目の付け所がヒップです

小説世界で全知無能を演じていたら、悪の組織のトップになってた

そういえば私は犬派でした。
きっと、もしも仮にイヌ科だったらたとえ神様であろうと恐縮ですが何時もお疲れ様ですとナデナデしたくなるに違いない程には、私はワンちゃんが好きです。

もふもふでもそうでなくとも四つん這いのその全身がキュート。中々暴れん坊な子もいらっしゃいますが、構ってちゃんな子もいっぱいです。見目も性格も一様でないのは当たり前ですが、だからこそありがたいものですね。

「さて、そんなワンちゃん達の中でもアルティメットフレンドリーなひらめちゃん。本日はどうかしましたか?」
「くぅ~ん……」

ワンワン、バウバウ、クウンクウン。どれも素敵な彼らの鳴き声ですが、イミテーション全知な私なんかでは解読出来ないのが困ったところでした。
いや、前にネコさんになった時の恵のニャン語のリーディングは完璧だったそうなのですよ。どうしてでしょうか。

もしかしたら私ったら犬派の猫属性ということなのでしょうかね。
そういえば前に宗田鰹節しゃぶりすぎて以降、お魚を見るとよだれが出ちゃう体質になってしまっていますし、なるほど半分くらいはネコさんに近いところもあるのかもしれません。
なんでか定期的にわらびに吸われるのもそのせいですかね。もし身体はネコさんで心がワンちゃんであるとしたら、耳が追いつかなくてひらめちゃんの言語理解ができないのは仕方ないでしょう。

とはいえ、ノーリード(この場合は一塁ベースべた踏みな状況、みたいな意味ではないです!)で我が家の庭までとことこいらっしゃったひらめちゃんの心に寄り添えないのは残念です。
私は大粒の瞳に影を纏う彼のふわふわヘッドをなでなでしながらこう呟きました。

「ふむ……悲しそうですね……これは何かあったということでしょうか」
「川島さん、お隣のワンちゃんに合わせて四つん這いになって話しかけてる……」

すると、続けて私の後方ちょっと上辺りから涼し気な声が響きます。
そう、漫画版三巻表紙イラストにてこれ水着の着方間違ってるんじゃないか論争を巻き起こしたこともある、お茶目系クールビューティーな鶴三玲奈さんですね。
昨日イザナミ本拠地で寝て起きてからどうも少し調子の悪い様子だったので、昨日は川島ハウスにてのんびりしてもらいました。

昨夜は理由不明にも就寝時に玲奈さんと同衾の上私めちゃ抱きしめられましたが、アレですね。きっと宗二君にするまえの練習的なやつだったのではないでしょうか。
そうじゃないとするとヒロインその二であるわらびの行動をを見るに、寝るときに入り込んできて抱きつくのはヒロインさん達の習性であるのかもしれません。
なるほど、彼女たちは面白い存在ですね。とはいえラストヒロインたる汀に抱きしめられでもしたら私即ティウンティウンですので、やはり彼女には不用意に近寄るべきではないのでしょう。

そう納得いかせ、私はワンちゃんと目を合わせての会話の都合お尻を向けての態度に申し訳なりながらも、ひとまず玲奈さんに挨拶をするのでした。

「あ、玲奈さん。おはようございます! 体勢故に振り向けずにお尻での挨拶になってしまって申し訳ないですねー」
「別に大丈夫……川島さんはお尻も可愛いから」
「お尻を褒められたのは初めてです! ありがたいことでお礼をしたくなっちゃいますが、先にひらめちゃんのご用事を済ましてしまわないとですね」
「きゃぅん?」

何故か私の言葉に驚くひらめちゃん。そして、良くわからないのですが私の突き出したお尻に集中する玲奈さんの熱視線。
何とも事態が不明瞭ですが、そういう時こそ一つ一つ物事は片付けていかなければなりません。
私が真剣な目に困惑を深めるポメラニアンの男の子。そこに畳み掛けるように、玲奈さんはこんなことを呟きます。

「うん。それまでお尻見てる」
「玲奈さんったら、目の付け所がヒップですねー……あれ?」
「……くぅん」
「わ。ひらめちゃんが急に私の後ろを取りました! これは……私のお尻を隠してくれています?」
「わんっ!」
「残念」

そうこうしていると、急に駆け出した私のお尻の裏を取り、玲奈さんに吠えかかりました。
ひらめちゃんの情緒の変化についていけず首を傾げる私に、しかし玲奈さんは納得したように私の無駄に大きめお尻から視線は逸らされます。
どういうことかよく分からず、でもまあ何かが解決したのならそれで良いのかなと思う私。

「ひらめちゃん。よく分からないですが、ありがとうございます」
「わん!」
「そして、でもおかげで分かったことが一つあります」
「くぁう?」

全知ぶっておきながら人の気持ちよく分からないウーマン(TS転生)だなあ、と自覚しながら私はそんなだからこそ頭を働かせ、今度は立ち上がってひらめちゃんに推理を披露するのでした。

「ひらめちゃん、実は玲奈さんのことかなりお好きですね? 私のセクシーなお尻になんて負けられないとその身を呈して……わ」
「きゃうんっ!」
「わ、ひらめちゃん! スネにワンパンチはヤバいです! 無能な私だと一発で青痣に……わぁ」

しかし、私の迷推理は彼の唐突な飛び掛かりによって半端に終わります。
転ぶ私に迫る肉球。あわや、私のほっぺにひらめちゃんのお手々によるスタンピングが行われようとしたその時に。

「おや?」
「きゅう」

ふわりと浮かぶひらめちゃん。
おかげで顕になったふんわりキュートなその全身が上から下まで転がった私には眼福ですが、ワンちゃんが空を飛ぶのは普通ありませんね。
ならば、普通ではない子が何かしたのだろうと理解する私に、その答えとして私の最も身近な四天王の一人の声が少し離れたところから聞こえたのでした。

「もう、ひらめ! 吉見お姉さんをイジメちゃダメだよっ」

そう。それはもっと空の高いところにぷかり。魔法少女埼東ゆきちゃんは首領においたしようとした飼い犬の行動におかんむりの様子で。

「くぅん……」

実は昨日から元気のないゆきちゃんのために動いていたらしい心優しきワンちゃんのひらめちゃんは、頼りにしようとしたお隣さんたる私の想像外の阿呆さによって受けた想定外のお怒りに、悲しそうな鳴き声を一つあげたのでした。

 

「お姉さん、だあれ?」
「私は鶴三玲奈」
「ふぅん……あなたが」
「そう言うあなたは?」
「わたしは埼東ゆき! この世界でたった一人の魔法少女だよ!」
「そう。つまり子供なんだね」
「うーん。そう言うお姉さんは時代遅れって感じ?」
「そうね。迷子の子どもにあえて追いつくつもりはないわ」
「む。足元の崖にも気づいていない、そんな人に語られたくないなー」
「そうでしょうね。地に足もろくに付けない子供に異見なんて理解できないもの」
「むうー」

さて。原作たる「錆色の~」シリーズにてゆきちゃんと玲奈さんの関わりは相当に希薄でした。
多分、宗二君越しに会話をちょっとしたとかくらいでしたね。ゲーム内のイベントでは会話機会もありましたが、外注ライターさんが好き勝手したのかお二方だいぶキャラ変の上理由なく仲悪くって個人的にはあれを関わりに入れて良いのか微妙です。

しかしこの二次創作的な世界においてはこうしてお二人に会話機会が発生しました。
互いが目を合わせて、忌憚ない意見を交わし合う。こんな光景を見るに私がいかに杞憂を抱いていたかが分かるというものです。結論として、私はこう言って諸手を上げて喜びます。

「良かった……二人とも仲良しです!」
「……はぁ?」
「えー……吉見お姉さん、お目々大丈夫? それとも頭もっと悪くなっちゃった?」
「むぅ。ゆきちゃんたら私が頭の病気であること前提でお話しないで下さい。ただ、私から見てお二人は想像以上に穏当な会話をなされていますよ?」

開いた口が塞がらないといったような玲奈さんだけでなくとんでもなく失礼なことを口にする小悪魔な魔法少女に私は口をとがらせました。
いや、でもこれ実際テキストで見たゲーム版の会話と比べたらもう平穏なものでしたから。
ギャグイベントの一部とはいえお二人水と油どころじゃなかったのですよね、あの話だと。
先入観に囚われていた私に、自然玲奈さんが問います。

「……これで? 川島さんは私とこの子がどんな会話をすると思ってたの?」
「……クロスカウンターです」
「え? それってどういう意味?」
「出会い頭にクロスカウンターでパンチが炸裂。以降は互いに拳で語るターンに強制的に入る……そんな風に予想していました」
「ええ……流石に子供に手を上げることはないかな……」
「私も、雑魚雑魚な一般人をサンドバックにはしないよー」
「ほらっ! 意見揃ってお二人仲良しです!」
「……うわあ」
「うわあ」

喜ぶ私。意見だけなく嘆息もぴたりと合っているのであればもうそれは、仲良しでいいでしょう。
手の中でスヤスヤしはじめたひらめちゃんの重みにすらぷるぷる悲鳴を上げる我が手の無力をひしひしと感じながら、私はでもにっこりです。

「ふふ」

それは、好きな子二人が仲良くしてくれるなら、それより嬉しいことはありませんから。
つい、下手な笑顔だって浮かんでしまうというものです。
すると。

「まあ……川島さんが喜んでくれるならそういうことにしようか」
「えー……わたし、もっとお姉さんで遊びたかったんだけどなあ」
「いいでしょ? 悪魔の子」
「仕方ないなあ。月時計さん」

なんでか私のものよりずっと上等な笑みが二つ向かい合って、符丁のような呼び合いと共に二人の手のひらが合わさりました。
私としては嬉しいばかりの筈の光景。ですがしかし、もはや尊さに眩しすぎれば仲間はずれに私のほっぺはぷくりと膨らんでしまいます。

「むぅ。もうお二人あだ名付けあってます……いっそ嫉妬しちゃいますね!」
「わ」
「きゃ」
「わん?」

だからそう、私は二人を更に強く繋げるようにひらめちゃんを床においてから抱きました。
原作で敵同士であろうがどうだろうが、今はただ隣り合う人同士なのだということを温もりで伝わせるためにも。

それが正しいのかどうかは分かりませんが、でもやっぱり好きが二つってあったかくて。

「もう、大丈夫ですよね。ゆきちゃん?」
「……うん」

私は、私がぽっと出の誰かに取られてしまうのかもしれないという彼女の余計な心配が、この熱の曖昧に早く融けてくれればいいなと願うばかりでした。


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