第二十八話 私の、憧れ

吉見さん 小説世界で全知無能を演じていたら、悪の組織のトップになってた

はてさて。
あの【ぷにーず】とのイベント戦闘に静さんと四天王乱入事件から少し経ちました。
いやまあ、本当に少しなのですがね。私が善人らを退かせたことに満足した静さんが徒歩で帰ったその後。

「終わりましたー。起きて下さいー!」
「うーん……」
「……ぅ」
「やれ。ここは非力な私に困りますね。お二方をこの強い日差し遮られる室内へと入れることもままならないなんて……」

具体的にはぷにーずの死骸でベタベタになったイザナミ本部でこれ誰がどうするのだろうと困り顔で、おねんねしたままの東輝さんに玲奈さんを起きてと揺らしていた頃合いですね。
ラスボス善人のガチ威圧なんていうものを受けては流石にネームドキャラのお二人でもきっと辛かったのでしょう。
触れてみたら苦悶の表情と全身の強張りが凄いです。またこの時期は暑さも中々でした。
ならば、空調利いた室内にて彼らを安堵させたいと思うのは自然ですが、人様を運ぶにはあまりに私の無能が邪魔です。

「よい、しょ……う、重くはないでしょうし、むしろ人体としては軽すぎる方だろう玲奈さんでも、やはり私には荷が勝ち過ぎます……」

ためしにうなされている玲奈さんに触るのごめんなさいしてからその背中と足の下に手を入れて持ち上げようとするのですが、当然無理。
尋問対策ですかね、さっきどさくさに紛れて善人に私だけ外装没収されてしまったこともあり、これではどうしようもありませんね。
人様をずるずる引きずるわけにもいかないですし、そもそも私ほどの非力ではそれすら出来るかどうか不安でした。

「どこもかしこもベタベタだな……なんだコレ……って、どうして吉見がここに」
「わ。丁度いいところに宗二君が! 流石は救世主です!」

しかし、そこはご都合主義はびこる創作世界。主人公はここぞという場面にてやって来てくれるものだったようです。
まあ、原作たる「錆色の~」シリーズは展開が主人公に不都合主義に近いような印象がありましたが、それはそれ。
汗かきながらひーひー言っていた私にとって、まだ未覚醒でもそんじょそこらの怪人よりは強めな宗二君の登場は本当に助かります。
喜ぶ私に、しかしガチ救世主な彼は確定的なその未来予定からの呼称を相変わらず嫌って苦笑いしてから状況を把握するのでした。

「あはは……やっぱり俺は別に救世主ではないけれど……力が必要みたいだね。そこに倒れている二人……鶴三はともかく、東輝さんまでとは……いや、うん。取り敢えず俺が彼らを運ぶよ」
「お願いしますー……あ。玲奈さんえっちなの嫌いなので、どうかお尻とかお胸とかはノータッチで頼みます」
「要救助者相手にそんなことするわけないって……うわ、鶴三ってまるで羽みたいに軽いなあ」
「うむむ……」

そして、私は宗二君のあまりのジェントルマンぶりに戦慄してしまいます。
いや、アヌビス神が量る時に使うダチョウの羽でもないし、普通は人と羽を比較することなんてないはずでした。
ですが当たり前のように彼は玲奈さんを軽さの表現としてそう褒めそやすのですね。
別段ラッキースケベも起こしていないですしこれがもし彼女が起きている際でしたら、ほっぺがポッとなってしてしまうかもしれません。
もっとも実際は玲奈さんは現在進行系でおねんねの最中。なんだかヒーローとヒロインの距離縮める機会なのにちょっと勿体ないなあと歯がゆく思う私。そこに、後ろから低めな声がかかりました。

「うん? 嬢ちゃんひょっとして嫉妬でもしてるのかい?」
「おやこの声は……大地さんですか。息災で何よりです。それと嫉妬って何です?」
「ま、俺は何ともないが、しかし戦闘予定の連絡来ていたとは言え随分あんたら暴れたみたいだなあ……後、分からないなら別にいいさ」
「やれ……私は特に嫉妬も暴れた記憶もないですが……取り敢えずそれでいいのですね」

私が振り返れば、そこには真っ赤なスーツを着込んだ紳士が一人。
そう、彼はイザナミでは基本宗二君とセットで動いている第二世代最優たる拡張型人間道上大地さん。
普通に警邏のお仕事をしていたところをただいまお帰りになったようです。
嫉妬とかなんだか良く分からないことを訳知り顔で語っていますが、まあそれはいいとして私は鶴三さんの次にと東輝さんを抱え上げる宗二君を彼と並んで見つめました。
役に立たない私の横できっと私が逃げ出さないように睨め続けているだろう、大地さんはこう呟きます。

「今回は……納得いくまでその全知、吐き出してもらうからな」
「分かっています」

頷く私。まあ、こうなったらある程度の説明は必要でしょうから。
なにせ、辺りの監視カメラを筆頭にきっと記録機器は何もかも黒に壊されていて、そんなの出来るのは善人だけ。
彼が現れて無事なのが私しかいないのであれば、それは疑われるのは当然で、しかしだからといって宗二君越しに私の無能ぶりを知っているだろう彼は首一度傾げてから。

「はぁ……本当に黒幕だったってか?」

私の過去の言葉を参考にして、そう悩むのでした。

 

「ええと……川島さん……」

さて、ただいま私はリーダーというか部長さんなお姉さんと初対面しています。
目の下に目立つ隈を付けた白衣を羽織っている彼女は阿合ミチルさん。あまり原作では姿がなかった第二世代の女傑さんですね。
彼女、善人がほぼ台無しにしてからも続いているイザナミ研究所の室長も兼任しているのですからかなり忙しいみたいなのです。
最終決戦前にはめちゃ格好いいところ見せてくれましたが、正直なところそれ以外のキャラクターは不明。
第二世代の常であるその戦闘性能の高さは知っているのですが、ミチルさんはゲームで操作も出来なかったこともあり、馴染みはあまりありません。

「ふぅむ」

とはいえ、このにゃんこちゃんデザインの眼鏡の奥から覗く【紅い目】といい、外伝での活躍が期待されていたキャラでもありました。
スタイルは私に近い残念さんですが、まあ活躍カットなアニメでも雑誌の人気投票でおふざけ票が冗談みたいに入っていた皆勤賞のドラム缶よりは上だったですから、その顔面人気も中々のものですよね。
とりあえず、私はこの個性的な美人さんの尋問というには優しい質問を前に、身を正すのでした。

「それで……本当に貴女がテュポエウスのトップだと?」
「はい。何を隠そう私こそ、善人をよしよしすら出来てしまう悪の中の悪。最悪なのです!」

明らかに疑いから目を細めながら聞いてくるミチルさんに、私はガチガチに本当のことを直球で返します。
ちなみに善人の髪は癖っ毛で、なんだかふわふわでした。とはいえそれは感想なので、私は事実ばかりを告げるばかりなのですが、しかし彼女は首を振ります。

「……はぁ。話になりませんね。あの残虐非道が誰かの下に来ることを認めるはずがありませんよ」
「むぅ……本当のことなのですがー……」

ウソみたいな事実を前になるほど、ミチルさんがしたのは常識的判断でした。
いや、ラスボスが無能の前に跪いているとか、もう仔細を知らないと訳わからないですものね。
事実、私だって善人が私に優しいの、原作知識からも凄く違和感ありますし。女子に優しい善人とか、前世の貴腐人さん達に解釈違いだと怒られちゃいそうです。
そんな風に考える私に、続けてミチルさんはくいとつるごと眼鏡を上げてからこう言い出しました。

「とはいえ、対象の居住地に貴女が頻繁に出入りしていて、また東輝の報告からも彼とそれなり以上の仲であることはわたくしも理解しています」
「おおっ。流石は友美さん。善人ハウスも監視していたのですね。気づかなかったです!」
「はぁ……川島さんが全知というのは本当ではなくても、伊達ではなさそうですね」
「むむ……それも本当なのですが」

これほど知らないはずの情報チラチラさせても全知と信じ込んで貰えないとは、やはり学者肌の人たちは常識的過ぎますね。
まあ、実際全知なんて原作知識使ってるだけのうそっこなのですが、まあとはいえこの二次創作の世は全て原作から派生したものだからあながち完全に外れているということもなく。
しかし私の内情なんて知ったことじゃないと、白衣の衣擦れ大きく立てながら、一本指を立ててまるで授業している先生みたいにしてミチルさんは続けます。

「いいですか、川島さん。確か……脳に収まる情報は2ペタバイトほどでしたか? どちらにせよ、脳の容量がどうしたところで物理に収まる範囲であるならば、全てをそこには収められる筈がないのです」
「なるほど。確かにその通りですね」
「ですので、貴女が全知というのは虚偽です。例えば……そうですね。わたくしの今日の体重は分かりますか?」
「うーん……流動性のある情報は不確かですが……痩せ気味で確か52キロくらいの筈ですよ?」
「残念。いや、本当に残念ながら今朝は53キロもありました……まあ、そんな風に貴女が抑えられているのはつまり勘所、核心ばかりなのでしょうね……予知に似た予測、いいや知識。そういったものでしょう?」
「ど、どうでしょうねー」

そして、きっと私の頭の中に静さんの次くらいにミチルさんは迫りました。
とぼける私ですが、実は内心焦っています。なにせ、私ったら原作知識すらなかったら本当にハリボテですからね。
もしイザナミの手で今から開頭して知識いただきますとかされたところで抵抗できません。そんなことにもしなったら善人が暴れ出しちゃいそうですし。
まあ、流石に元非人道的組織とはいえども、敵とまだみなされていないならそんなことはしないですよね、と悪ぶっちゃった後でぷるぷるする私。

そんな無力に、何を思ったかミチルさんは真面目な顔のまま唐突にも。

「なら、わたくしはこうする他にありません」
「わ……頭上げて下さい!」

そう、私なんかに頭を下げてきました。
動きと共に流れる、彼女のアルビノな白の髪。それが再び上がるのを欲する私に、しかしミチルさんは頭を上げないままに続けます。

「いえ、ありがとうございます。貴女に敬意を。貴女のおかげで対象は随分と《《穏やか》》になったようですから」
「そうですか?」
「ええ。以前なら、彼は見境なしに目に入る全てを害そうとしたでしょうから」
「あー……確かに善人、本当ならそんなところありますよね」

やっと顔を元の位置に戻してくれたミチルさんを前に、私は頷きました。
確かに望外にも善人は悪を自重してくれています。とはいえ、彼の欲するところのために死者が出ないということもなく、また悪に最小限を求め続けることが心苦しくすらある困った私なのですね。
だから、胸なんて張れるわけもなく、そして私よりはちょっとそれはありそうな大人なミチルさんは髪を指で整えながらこう問いました。

「そして……悪のトップを自称するそんな貴女が言うどうしようもない存在であるところの、山田静とは何なのですか?」
「えっと、静さんはですね……」

聞かれても、答えられることは実はそんなになかったりはします。
なにせ、彼女は無敵の明白。どうしても普通であるからこその、不変でした。
まああまりに概念に拠っている彼女を一言で語るのは難しいものかもしれませんが、しかし私には可能でした。
なにせ私はあの人の居ない穴を埋めるためにと頑張っただけの子供。そんな劣化コピーが本物に思うことなんて一つしかありませんよね。

「私の、憧れです!」

だから、私はつい笑顔になって、こう説明するのでした。

 

 

『結論として川島吉見は、敵か味方のどちらだ?』
「恐らくは、どちらでもあると理解しました」
『ほう……つまり関係者、駒として十分か』
「ええ。我々の構想の一つ【悪性固定】においては特に有用な存在と感じています」
『なるほど、ならばソレを【刻んで調べる】のは相当に後にしたほうが良いだろうな』
「ええ。対象が彼女に執心している間は、きっと」
『全知など研究対象としては申し分ない分、観察しかできないのは少々口惜しいな』

 

「そうですね……わたくしもアレの根源を今直ぐこの手で暴けないのが残念です」

 


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