自慢だが、あたしは並大抵の動物には恐れられてしまうこと以外は殆どぱーふぇくつな生き物である。
一度勉強すれば憶えちゃう(これ高校からは流石に無理だった)から復習って必要な工程なのかなと小学のせんせーに聞いて驚かせて、運動神経的なのが優れてるのは当たり前で軽く計測器握ったのに握力が60とかいってた時には今度はあたしがびびった。
そして、苦手気味な音楽だってやればそこそこ出来ちゃうのは成長率を自分のと比べちゃったひとりちゃんを落ち込ませたことで判明してる。
人間の美醜判別が苦手(可愛いひとりちゃんは除く)なあたしに自分が美人さんかどうかは分かんないけど、客観的に見てアベレージから外れた顔面ではないとは思うのだ。
もうここまで来ると、おー、あたしすげーと調子に乗りたくなり、実際調子に乗ってふざけて窘められるのが毎日のこと。
そんな自分を振り返るに、完璧に限りなく近いあたしに付いたキズは明らかだ。
性能は良好。だが状況がそれでも上手くいかないならばつまり操作に問題があるに決まってた。結論として、あたしはぽつりとこう呟く。
「あたしが後直さなきゃなのって、せーかくかなあ」
返事代わりに先に押してた自販機からゴトリと缶コーヒーが落ちた音がする。
お釣りと一緒にそれを取り出し、その冷たさをぞくりと感じてぴゃーと鳴く。
通りすがりのお利口さんな同級生が何事かとあたしを横目で見て、なんだまた井伊かよと足早に去っていくのはちょっとだけ寂しかった。
「うむむ……由々しき事態……」
ぱーふぇくつな直子ちゃんがこの春入学したのは、とある進学校。
ひとりちゃんは付いてこれない(学力的に)から置いてきてしまったが、ちょっと学校選びで背伸びしちゃったとこ受けたせいでその他の同中達一人たりとて付いてこれなかった次第に。
いや、一緒にこの学校でブイブイいわせよーぜとか仲良く(ちょっと一方的に)言ってたガリ勉君が、受験途中に腹壊すなんてしなければ多分こんなぼっち感を味わうことなんてなかったってのに。
一緒に受からなくて直子さんごめんとかガリ勉めちゃ謝ってくれたから水に流したし、その後何勘違いしたのか告白してきたのもごめんなさいで流せたけど、しかし今度はまさかあたしがクラスでこうも浮くとは。
これでは、私を知る人が少ないところに行くとか言い出して同じく都内の秀華なんてステキなお名前の高校にて、陸に上がった頭足類レベルとはいえ交友をじわじわ広め出してるらしきひとりちゃんにすら負けてしまっている。
原因は何かといえば、それはやはりぱーふぇくつなあたしに抜けたところである性格に所以しているに違いない。
あたしは、思い当たる節を渡り廊下の壁の花になってコーヒーくぴくぴしながら挙げるのだった。
「うーん……色々あるかもだけど一番は、なんか文系満点取っちまったからって勉強おせーて攻撃にむしろ間違え方を教えてほしーぜって反撃しちまったことかなあ……全く、生真面目なあたしったらジョークの加減ってもんが分からんぜい」
こんなんピエロとして下手くそだなあとクラウンの涙のメイクを忘れてたあたしは失敗を今更猛省中。
思ってたよりプライドってのが高かったクラスメイトに調子に乗ったフリしたらガチギレされちゃったなんて、ひでぇ過去もあったもんだ。
しかしそれだけであることないこと言われちゃったのにはまいった。教室でスベるのはもうあんまりしたくないなあと、悩めるあたし。
「はぁ……何たそがれてんのよ、ナオ」
「おー、ヨヨコパイセン! あざっす!」
「また変な呼び方して……いつも通りに呼びなさいっての!」
そこに声をかけてきたのは、同じく校内ぼっち気味なところのある偏差値高めの先輩、ヨヨコパイセン。
ここじゃあメガネっ娘な彼女にあたしは敬意を払うフリをするけど、そんな軽いのはゴミみたいに振り払われた。
でも噂されると恥ずかしいし、という訳でもないけれどヨヨコちゃんとあたし《《なんか》》との仲良しっぷりを周囲に示し過ぎんのもアレかなあと思うからちょっとゴネてみる。
「えー……でも校内で年上をちゃん呼びするのはふーき的にどうかと……」
「そんなのどうでもいいの! あんたらしくしなさい!」
「……そーだね」
そしてあたしは一発で納得。その上なんということでしょう、これまで悩んでいたことすらヨヨコ匠の手にかかればこんな一言で解決してしまいました。
そりゃ実際いい子にはなりたいけど、焦ってあたしのやり方を変えるまでのことじゃないよなあと思うあたし。
やっぱりこのヒトって【SIDEROS】外でも格好いいところあるよなあとあたしは思うのである。
「ありがとね、ヨヨコちゃん」
だからにこりとあたしは道化じゃないばーじょんのスマイルを向けてみると。
「……ふ、ふん。分かればいいのよ! ナオはナオのままが一番なんだから……」
そっぽを向いてから赤らめ顔でそんなことを口にするもんだから、もうあたしもこの先輩が可愛くて仕方なかった。
「はーい」
そう、ひとりちゃんの次くらいに。
「え。ナオさんとヨヨコ先輩って同じ高校通ってるっすか?」
「あれ。話したことなかったっけ?」
「いやあ……【SIDEROS】の活動してる時はヨヨコ先輩音楽にガチっすし、そういやナオさん意外と自分のこと話さないっすもんねえ……意外っす」
「そっかあ」
それこそ噂されると恥ずかしいのかあたしに目もくれず学校から一人直帰したヨヨコちゃん。
好感度不足気味かもな真面目ちゃんな彼女と違い、不良気味なあたしは新宿FOLTに寄って長谷川あくびちゃんと駄弁ってた。
【SIDEROS】ではドラマーで黒いマスクが目立つパンキッシュな装いに拘る彼女だけれど、さっきもFOLT店長の銀ちゃんと一緒に制服のまま来るのは止めなさいというお叱りをしてきたし意外と常識的で面白い子だ。
今は暫定的に貸衣裳を羽織ってリンゴジュースをちゅーちゅーするあたしの言を、彼女は興味深そうに瞳大きくしながら聞いてくれてた。
そういやどこ高っすか、という質問に対しての答えにだけでそれなのだから、そこであたしとヨヨコちゃんがぼっちとぼっちは惹かれ合う的なことをしてると知ったらお目々ボーンだね。
まあ、既にぼっちにさせようとしてた子の眼の前でスチール缶をねじ切って、貴女はこうなりたいかなと聞いたらぶんぶん首振って下手に出るようになったからあたしの前途はそんなに暗くないけど。
結果あだ名にゴリラ・ゴリラ・ナオコが追加されたのは多少のコラテラル・ダメージだと諦めてるあたしは、会話を続ける。
「ま、別にあたしヨヨコちゃんと一緒のとこ目指したわけじゃないんだけれどね。がくせーやってた結果、あたしと前のヨヨコちゃんの学力が並んじゃったってだけ」
「わあ……なんか言い方カッコいいっすね……というか、そもそもナオさん普通に賢かったの知らなかったっす。うち、今度勉強教えて欲しいっすよ」
「そーだね。あたしは代わりにあくびちゃんに間違え方をおせーて欲しいな」
「うひい。ナオさんらしいセリフっすね。痺れるっす」
「でしょー」
ニコニコしてるあくびちゃんの前で、あたしはあの子がキレたのは結局受け取る側の問題だったと結論。
余裕がないってのは怖いなあと思いながら、あたしはまあだからといっていい子にはなりたいよなあとは考え続ける。
理系もいけるっすかの彼女からの質問にまーまーね、と雑に返しながら、あたしは自分のターンにこんな質問してみた。
「ねー。あくびちゃんって結構傾いたカッコウだけどさ。それ止めていい子にしてた方が楽だとか思わなかった?」
「え? そんなこと一度もないっすよ」
「へー」
あたしは、何故か着せられたゴスロリ衣装のヘッドドレスから垂れる黒リボンを弄りながら少し驚く。
いや、まあ確かにメタルバンドしてる子がいい子ちゃんするのは変といえばその通り。
とはいえ、迷いなく彼女はこう続けるのだからあたしとして、悩ましい。
「うちはうちらしくしてるのが一番楽っすから」
「……そうかあ」
なるほど。眼の前のあくびちゃんは、自分を持っているということの手本。
それが後で間違いだと思ってしまうかもしれなくても、今を奏でるその態度は素敵極まりない。
「それが、大事だよね」
「っす!」
それこそ、今ひとつあたしというものを響かせられないあたしと違う。
今日も大事に持ってきたギターを披露することもなく、あたしは自信のなさから切磋琢磨を続けるばかりの観客を現状維持。
「ホント。あたしは何になりたいのかなあ……」
「……ナオさん?」
全く。能ばかりを持っていながら他の女の子に狩りを任せるライオンのように、あたしは殆どぱーふぇくつに、勿体ない生き物だ。



コメント