なんだか勘違いされがちですが、私はえっちではありません。
すってんてんな逆ナイスばでーに、エロティック情報を自動シャットアウトしてくれる優れた意識までもを完備。
妹のわらびと違いこれほど、エロース神に嫌われた存在はあまりいないでしょう。
そもそもぶっちゃけ、私は端からかなりの無垢というか純情系だと思うのですよね。
いや、TS転生なんてのしといてあれですが早逝したっぽい前世もお付き合いは清いものばかりというか、安全安心に過ぎて別れたことすらありました。
その上で、私なんてへんてこを性的に好きになって下さる人なんて中々あり得ないものですから、クリーンな昨今に納得はしています。
「しかしどの報道機関なども私を変質者扱いですか……やれ。おかしなものですよ」
ですが、ライバル悪に対する嫌がらせのために昨日とかに私が扮したウサギ仮面メイドさんに関しては、あまりに変態的と謳われてしまっているのですね。
それはまるで先行した噂が差しきって十馬身ほど事実と距離を広げてしまったようでした。
たぷたぷと携帯端末にてSNSにて検索すると、際どめの写真が出るわ出るわ。
いや私昨日こんな変なポーズしていないので、加工までされちゃってるのもありますね。
下手をしたらこれどこかのアイドルか何かという風に、持てはやされて拡散されています。
「とはいえ、彼らの結論としてはヒーローかぶれの変態扱いなのですね……はぁ」
一度目出没時の反省からスケスケは止めているのですが、発見者方からはこれ見せるために出てきてるのでは、っていうくらいにスカートがミニ過ぎるとの感想が多々。
いや、なるべく下から見えないようにぴょんぴょんしてるので大丈夫――この時の私は丸見え写真を広めるのは流石にという情けの心とSNS運営者がアップ後都度削除する等尽力があったのだと知らなかったのです――と思うのですが。
それに、思えばパンツって水着と似たようなものですしそんなに性的なのですかね。
少年誌でも時に出てましたし、今ひとつよく分かりません。
「……どうしたの、川島さん。携帯電話を見つめながら、溜息を吐いて」
「玲奈さん。すみませんね、辛気くさくて……えっとこれはそうですね。エゴサーチ? みたいなことをしてただけです」
私が携帯端末をつんつんしていたのは先まで誰も居なかった、鬼の屋敷の離れでした。
ただ、無能な私が気付かない間にずいぶんと玲奈さんに寄られていたようです。
紫色した瞳が間近で瞬いて、あまりの彼女の純さになんだかエゴってた私との落差に気恥ずかしくなりますね。
私は、そういえばどこまで知識の更新が成されているかよく分からないこともあり、ついつい素直なことをげろげろってしまいました。
すると、篭の中の鳥さんをずっとやっていたにしては意外にも若者用語にも堪能だった彼女は白い顔を少し悩みに歪ませながらこう返します。
「うんと……エゴサーチって確か、自分の名前とかをネットワークで検索することだよね。ひょっとして、川島さんって有名人だったりするの?」
「えっと……言葉のチョイス間違えてました。ちょっと画面見て下さい」
「これは川島さん……いやお胸ちょっとあるから違う人だね。この人のこと調べてたんだ」
「……そうですね。それでこの人どう思います?」
「そう、だね……」
覗き込み、しかしあっさりと、画面のぱっくり開いた胸元を覗いた玲奈さんにこれは私と違うと首を振られます。
普段の無乳という特徴から決して変身後は私と思われないのはいいのか悪いのか。
力借りている善人の理想化がこれということで正直なところ複雑ではありますが、まあ正体バレとかで一騒ぎするのはヒーローだけでいいので、これでも仕方ないでしょう。
悩める私に、しばらく睨み付けるようにウサギ仮面メイドな私を見つめてから玲奈さんは私の質問に対してこう結論づけました。
「えっち?」
「わー! 違いますっ!」
「きゃ」
突然の私の狂乱に玲奈さん、座敷にお尻からすてんとしてしまいましたがしかしそんなの認められることではありません。
あざといの苦手な私ですのに、しかしそれ通り越してえっちに至るなんて、こんなの以前から気軽に裸にならないでねと指導していたわらびに申し訳なさすぎます。
私は、こんこんと過った知識を憶えることのないように、訂正を始めるのです。
「玲奈さん。これは違うのです……きっと、やんごとなき事情が彼女を覆っており、そして世界の認識は間違っているのです……お尻を出した子一等賞じゃなかったのですか……」
「うん……よく分からないけれど、川島さんがその人を大事にしてるのは分かったよ」
「そうですね……ええ。彼女は勘違いされがちですが、間違ったことはしていないのですよ」
「ふぅん……」
私の隣でスクロールされていく画面をじろじろしている玲奈さんを他所に、私は考え込みます。
いや。ぽんぽん悪人達をやっつけていたのに、どうして私は様態ばかりが話題になってしまうのか。
これは、平素ヒーロー側のイザナミの制服がお役所的にかっちりし過ぎていることが原因なのかもしれません。
これまでは、ゆきちゃんが同人誌とかすっごく出てるくらいに人気――未成年な彼女のえっちな二次創作はテュポエウス公式的には禁止らしく、善人と恵が違反者に対応を行っているそうです――で一人勝ちでした。
ただ、このままだとこの私的なウサギ仮面メイドさんが変に人気出てしまい、こっちは規制なしだからと二次創作エロまみれになる未来すら有り得そうです。
そうなると、本家本元たる私の清純派イメージが損なってしまう可能性も出てきてしまうでしょう。私は頭を悩ませました。
「やばいです……」
「ねえ、川島さん。ひょっとしてそのそっくりな人って川島さんの親族の人だったり……」
「そうです!」
「わ」
何やら考えすぎなことを話されている玲奈さんを他所に、私は名案を考えつきます。
外付けパワー不足な今の私はぴょんとしても大して跳ねずに、結果ちょびっと玲奈さんを驚かせるばかりでした。
しかし、実際パワーをお借りして見た目も変わったウサギ仮面メイドな私は並の悪人や超能力者なんてばったばった。ゆきちゃんから逃げることすら出来たのですから中々のものと言っても問題ありません。
そしてその外装的な力は善人とミュートに施されたばかりであり、つまりそれは他の方にも負わせることが可能ということでしょう。
私の無能な脳みそはぐるぐる動いた後に、こんな結論を導き出しました。
「玲奈さんも、仮面メイドさんになりましょう!」
「ええ?」
そう。一人だから悪目立ちするのです。なら、二人に増やして印象を分散させるのが吉でしょう。
まあ薄幸系ヒロインが変身ヒーロー的要素を得るなんてとんだ原作ブレイクな感じがしますが、私のイメージ戦略(?)というのも大事です。
という、ことで私は彼女の華奢な肩を抱きながらえいえいおーしてしまうのでした。
「今日から私達は、コンビです!」
「それは……うん」
私がいち程度なら彼女の賢さは、ひゃく。そんなのは玲奈さんの常態高速思考の設定からも私は識っています。
何やらこれだけの会話にて彼女に察されたのは、当然でしょう。普通なら、性能差に怖じる人だっているのかもしれません。
「やりましたー!」
とはいえ、実のところこの子の良さなんてそれだけじゃなくって、そもそも人って色々あって素敵なものです。
取り敢えず無能の私は理解のうんの返事をいただけたことに狂喜乱舞するのに忙しく、ですから。
「素敵かも」
ぽつりと、そう感想を述べた玲奈さんの頬の赤みと笑みの深さに気づかなかったのです。
さて。知る人は川島吉見が全知無能と知っている。そして、もっとよく知るものはそんなものよりも彼女に注目すべきところがあるとも分かっていた。
今回発揮されたのは、奇矯な行動力。そのためにテュポエウスは騒然となったのだった。
ころころ気分によって変わる、上水善人が吉見のためにと万と用意しているアジトの一つ。
何だか今日は随分と質素というか簡易な内装のアパートだなあと気を紛らわすために見回しながら、埼東ゆきはこうぽつりと言った。
「ほんと、吉見お姉さん、何考えてるんだろ……」
「ヨシミンはきっと、何もカンガエてませン!」
「それならまだ良いが……なんだ。実はこの世界は吉見たち主演の女児向けヒーロー物だったというオチはないよな?」
「あはは……それはないと思うけど……いや。吉見が急にボク越しに外装に注文付けてきたのにはびっくりだったね」
「もっとファンシーに、そしてもう一人分用意してほしいってのは……いや出来るし出来たが。まさか大事にしていたヒロインとやらに外装を着せるとは……そしてそのタイミングで図ったように変な敵が現れるとは」
「意外と玲奈お姉さん、隙がなくて結構強かったなあ」
悪いお兄さんお姉さんの後ろで、本日の吉見のやらかし記録が大きく映る画面を見ながらゆきは所見を述べる。
返ってきたのは、女子陣の苦笑いと苦い善人の表情ばかりだった。
仮面ヒロイン二号として突如現れたネコ仮面メイド。楚々とした仕草とクラシカルなメイド服が似合う少女。
彼女は何故か大盾とピコピコハンマー(の見目の硬質な武器)にて、なんかぴょんぴょんして邪魔いるばかりの一号を他所に変な丸い敵(吉見はそういえばこんなのミニゲームで出てました、と叫んでいた)を冷静にぷちぷち潰していた。
最後にVサインを披露して一号と共に夜空に消えていった彼女はSNSにて情報大渋滞。
知らぬ大勢の考察が様々にネットで披露されている中事実を知る四天王は、こうして頭を抱えるばかりだった。
「……吉見がこうしてヒーロー行為に意欲的になったのはいいんだけれど、一体あの敵はなんなんだろうね……」
「なんかカラフルでしタ! ヒョットして、魔法的なモノじゃないデスか?」
「うーん……魔物にしてはちょっと可愛すぎるし……多分人造生命じゃないかなー……善人お兄さんは何か分かる?」
訳知り顔の前で首を傾げるゆき。
彼女にはただの目のついた派手な色付き丸い水風船というファンタジックな見た目の存在が、ひときわでかいのの指示の元隊列を組んで向かってくる姿は面白かったが、真面目に相手したくなるような存在でもない。
そもそも変なあの生き物も一般からすれば脅威ではあるが、今回様子見か出張らなかったイザナミのヒーロー一人で十分対処できるレベル。
吉見たちはオボエテロヨー、との珍妙な高音音声を残してぷにぷに達が帰っていくのを見送っていたが、コミカルすぎてあんなのどうにも悪の敵には相応しくないと思うのだった。
「分かる。分かるが……」
「善人、どうかした?」
「恵。いや……こうも雑な存在もあったものだと思ってな」
「? どういうこと?」
そして【鍵】を持つ善人は、過保護にも吉見のためにと黒き門を繋げることで見知ったそれらの正体をとても嫌そうに語る。
どうやらあれら(公式ゲーム内のミニゲームのために存在を後付け設定されたゆるキャラ)とは住む世界というかジャンルが違うのを、彼も感じているようだった。
仰々しい英語で付けられた名前を省略し、大体の真実を善人は話し出す。
「簡単に言えば、アレは廃棄されたものが集っているだけに過ぎない。……とある研究者がどこぞの組織に乞われて制作した戦力だったが、増やしすぎたので放ったらその生き物共が徒党を組んだだけ、らしい」
「あー……体当たりで壁崩れるレベルだから、雑兵としてあの丸いぷにぷには悪くないかもしれないけれど……あの見た目で意外と社会的なんだね」
「また、近くにコミュニティがあるようだな。オレらなら根絶も楽だが……まあ、あのレベルならむしろ吉見達の相手にちょうどいいから放置すべきか」
「いいケイケンになるかもデス!」
「我が首領が雑魚専になられても困るけどね……」
「……まあ、何事も実績だ」
彼的にはあまりにどうでもいい情報を真剣に精査することで疲れた気を取り直して、善人は現状を頷く。
ひょっとすると全知というのも無能に見えるほど馬鹿でなければ受け入れ損ねるのかもしれないという新たな気づきのようなものを得た彼は、シリアスを取り戻してこう呟くのだった。
「我らが悪であるのは、数多の屍の上に立っているからだ……だが、吉見はそれを分かっていない」
そう。行いこそ人の正体で、ならば心など本来どうでもいい。
しかしそれだって彼女に大事に大事に拾ってもらったのだ。そうして今まであの子にずっと優しく拭われている現実がある。
ならばと、汚れてしまった少女に対して彼らが改めて幸せになって貰うことを願うのは、もう当然だったのかもしれない。
「うん。だから、あの子には何時かヒーローと間違われるためにも善行を積ませてみないと」
「吉見お姉さんは、まだ引き返せるからねー」
「デス!」
不揃いな四天王の意見は一致している。
これ以上悪のために、吉見はあるべきではない。我々等を愛する者ではなく正しく、愛されるべきなのだと彼らは思っているから。
「さあて。後は本当に誰がオレ等を《《負かせて》》くれるんだ?」
何時かの敗北という苦渋の別離を予想しながら、その相手を想像すらできない己らの強力に頭を悩ませ続けるのだった。
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