☆ルート第六話 貴女が必要

いいこちゃん2 いいこ・ざ・ろっく()

あたしは、いい子になれたらいいなあと思いながら、良いお手本として毎日のように後藤ひとりさんのおっきめピンキーお尻を追いかけてばかりの謎生物である。
しかし勿論そればかりしか出来ないのかと聞かれれば、まあやろうと思えば大体は出来ちゃうかもと返せてしまう。
というか、それこそジミヘンちゃんに会うまでは百獣の頂点だったあたしは、それこそ何でこんなことも出来ないのかなあと、他を下に見ててあんまりいい子じゃなかったのかもしれない。

『わたし、直子ちゃんと最後まで一緒に居れなかったから……』

まあ、もっともひとりちゃんからいい子の素晴らしさっていうのを味わってからはそうなりたいなって思うようになってしまった。
それこそ大体できちゃうあたしのいちばん苦手な、他人を思いやるということをあたしはなるべく努めるようになる。
お父さん辺りからは頂点目指そうぜ的なお誘いがあったけれど、勝って他人を蹴落とすことって別にいい子ちゃん的じゃないよねとそれ以外の努力は殆どしなくなった。

「何。つまりナオって一番になりたくないの?」
「ふうむ。あたし的にはオンリーワンを優先しちゃいますねえ。太陽には近づくものでなければ、お星さまの隣で輝けるくらいになれればいいかなって……」
「そんなの……そんなのただナオが弱虫ってだけじゃないっ!」
「おおうっ」

しっかしちょっぴり能力ミニサイズで愛らしいその他大勢さんを好きになるのは簡単なのだけれど、同じくらいに嫌われる方が楽だったりするから困りもの。
今日だってお友達さんとすらこうしてミスコミュニケーションを発生させる始末。本日はシングルな彼女の黒尻尾が怒りのあまり逆立つようだった。
いや、勿論ヒト見てないんじゃね疑惑がよく起きるあたしだって、ヨヨコちゃんがナンバーワンを目指して邁進しちゃってることには気づいてる。そして、だから一時期昔のあたしみたいな嫌われがちな子だったってことも。
まああたし的にはそんなちょっと足音お留守なところもヨヨコちゃんの愛すべき点でしかない。そして、今友達が自分と同じ気持ちになってくれなくて苛立っていることだってまるっとかわいい。
いやひとりちゃんみたいなスーパーいい子ちゃんなんてそう居るわけもないし、むしろ多様性ってかなりありよりのありだねえと、あたしは頷きながらこう返す。

「なるほど、そーいうご意見も確かにありますなあ……流石はヨヨコちゃん。あたしの悪いとこ全部わかっちゃってら」
「ならっ」
「いやあ。確かにあたしはひょっとしたらぴょこぴょこヨヨコちゃんに付いてくことだって確かに可能かもねー。でも、その先は別にあたしの目的地じゃないから」
「……だからそんなに【SIDEROS】に加入したくないっていうの?」

名案と思ったのを再度否定されたからかヨヨコちゃんは、まるで打ちひしがれたかのように、そんなことを口にする。
いや、こんなぼっち気味な子があたしを求めてくれたのにそれを突っぱねるなんて可哀想だとあたしは思うよ。
しかし、物理的には図工で木製ワンちゃん(いちぶんのいちで色んなとこ動きます)を作成し器用さの化身だと恐れられたあたしだけれども、実際人間関係においては不器用極まりない。
本来ならば怒れる相手にばしっと言うのは避けたほうがいい。落ち着いてから訥々と語るのがベストでなくてもベターだとは知ってるんだ。

でも、冷静にそういう技使うのって結構ふせーじつって思っちゃうあたしも居れば、ならそんなことしてやんない。本音には本音であたる。不格好すぎて嫌われてもあたしはヨヨコちゃんにそうしたいから、そうするんだ。
なんとなくその先を察しながら、あたしは手のひら二つでごめんねしてからこう返す。

「勿論、こーえーなこととは思うけどねえ。絶対ヨヨコちゃんとお隣さんとか楽しくて仕方ないだろうし」
「なら!」
「でも、もう埋まってるでしょ、場所。あの日貴女のための指先に飛びついたのは、あたしじゃなくて楓子ちゃん達だよ?」

あたしはヨヨコちゃんの前であの日【SIDEROS】再結成時にしたようにぴょこんと指先一つ伸ばす。
そして、そこに飛びついてくれた三人のノリの良い同級生達のことを想い、告げた。
途端に、ヨヨコちゃんの綺麗な顔は苦渋に歪んでしまい、なんだか申し訳なく思う。
でも、明らかに今のほぼ完成形の【SIDEROS】にあたしなんて余分極まりない。それに、あたしはステージできららと輝く彼女らの素敵な姿を見る側でいたいという気持ちもあって。

「っ! なら……なら……楓子をクビにしてでも……」
「ヨヨコちゃん」

しかし、どうやらこんな好き好き伝えてばかりのいちファンなんかが惑わしてしまいヨヨコちゃんを勘違いさせてしまったみたいだ。
明らかに、生来の負けん気が強く出すぎていて、またあたししか目に入らなすぎて今のヨヨコちゃんはおかしなことを言っていることにすら気づけてない。
本来の、とても優しいだからこそ傷だらけで天辺を目指す格好いい彼女なら、自分がやられたら嫌なことを口にしようとすら思わなかっただろうに。

そんなにあたしを求めていてくれるのは有り難い。でも、これは無理。
あたしは道化の仮面を取り外して、ちらりと本音を口から零すのだった。

「それはだめ。あたしは、誰かのために誰かを不幸になんてさせたくない」
「あ……」

小さな冷水。しかしそれは熱くなりすぎていたヨヨコちゃんを冷静にさせるにはあまりあるものでもあったようだ。
彼女には、あのふわふわした周りをよく見るとっても優しい楓子ちゃんの顔が浮かんでいることだろう。そして、ひょっとしたらそんな大切なものを天秤にかけてしまった自分に苛立ってしまっているかもしれない。

そしてその上できっと。あたしは、彼女の強気な眉が更にキッとなるのを見ながら、彼女ばかりを優先してあげられなかったいい子ちゃん崩れな自分を心のなかでなじるのだった。

「も、もうっ、ナオなんて知らないんだからっ!」
「あ……」

そして、駆け出ていく背中をあえて見逃してしまうあたしを、あたしは好きになれない。
誰彼の心の傷の深さの程度なんて、比べも推し量れるものでもないのに、後回し。
あたしは、黙っている彼女の方を見て、こう語りかけるのだった。

「大丈夫。さっきヨヨコちゃんの発言は気の迷い。楓子ちゃんは間違いなく【SIDEROS】に必要な人だよ」
「ナオちゃん……」

そう。どうしようもないあたしは話を途中から隠れて聞いてしまっていた涙ぼろぼろの楓子ちゃんのためにだって、なりたかったかったのだ。

 

「楓子ちゃんは、すっごく頑張ってるってヨヨコちゃんも言ってたよ? というか、あたしなんかよりずっとギター上手いのは間違いないし」
「うん~……」
「そもそもあたし、メタル合わないし……というか音楽自体苦手かも。正直自分のギター弾いてるだけで耳が常に痛いんだ」
「へえ~……それでもあれだけ弾けちゃうナオちゃんって天才だねえ」
「そ。そんなあたしに血迷ったヨヨコちゃんにさいしゅー的に大事にとって置かれた楓子ちゃんだって、十分に凄いんだからね?」
「……ありがと~」

こくりこくり。
あたしの慰めに頷くふわふわ少女、楓子ちゃんは目の下を少し腫れぼったくしている。
先まで泣いていたから、というのがその本当のところであるが、やはり感謝に微笑んでくれたその姿こそが彼女に一番のお似合いではあった。

ああ、あたしはやっぱり誰彼から指さして笑われるピエロになれたらなあ、と思わずにはいられないが流石に礼を失しないようシリアスさんには従いがち。
ちょっと泣き崩れて乱れた楓子ちゃんの髪を撫で梳いてあげると、また少し悲しそうに彼女はこう言った。

「私、でも……知らないって有耶無耶になったことがちょっと嬉しかったかも……悪い子だね~」
「そんなことないよ。むしろヨヨコちゃんたぶらかしたあたしの方がよっぽどワル。何せ、寝ない子誰だって来たオバケさんを逆に寝かしつけちゃうくらいだから」
「ふふ。それは悪い子~。……うん。確かにヨヨコ先輩に一番に親身にしてたナオちゃんにずっと一緒にいて欲しいって、ヨヨコ先輩が願っちゃったのは当然か~」
「あたしも実は楓子ちゃんと一緒にスイーツで一旗揚げたいって思いもあったりしちゃったりするから、また事態は複雑だねえ」
「なにそれ。うふふ。初耳だ~」

耳をくすぐる柔らかな音色。やっと本来の笑顔に近いものを取り戻してくれた楓子ちゃんに、あたしは一安心。
そう、本城楓子ちゃんとあたしはもうただのロイン友達から脱皮を繰り返し続けて、今や一緒にケーキを作ったりする仲。
直感で作るあたしと計量を欠かさない彼女の作るものが味と傾向そっくりなのは驚くべきことであり、また彼女のデコレーションの上等さには金の匂いすらした。
まあ一笑に付された実は冗談じゃなかった目論見は差し置いて、それでは慰めの続きをはじめなければ。

「ね。つまりお相子ってことでいいでしょ、ヨヨコちゃん?」
「え?」

あたしは、楓子ちゃんから目を離し後ろに目をやってから、問った。
果たして疑問の声はどちらのものか。しかし、今度こそ真っ直ぐあたしはヨヨコちゃんばかりを見つめながら、こう言い張った。

「大丈夫、ヨヨコちゃん。あたしは貴女の友達なんて素敵なこと、決して特別にならなくたって止めてやんないよ」
「っ……分かってるわよ」

そう。今回の原因はあたしがヨヨコちゃんを安心させてあげられなかったというそれに尽きる。
別に義理義理で生きている訳じゃないけど、信頼度足りなかったかなあとあたしはちょい残念。
とはいえ、いい子というのは誰かだけの顔しか見ない者とは違うだろうから、こりゃあ大変だ。
ツンデレに加えてヤンデレの素質もちらちらさせてくるヨヨコちゃんの将来に慄きながらも、あたしはなるべく優しく言葉で彼女の背中を押す。

「なら、良かった……さ、ヨヨコちゃん」
「う……そ、そうよね。こういうの確りしないとダメよね……」
「ヨヨコ先輩……」

しかし、どうにもこの先輩さんは情けない。
決して頼りないわけではないのだけれども、ちょっと人間関係に不得手なところが玉に瑕。
少しの間口をパクパクさせて彼女の意地が謝罪の邪魔をさせようとしていたけれど、でもやっぱりとても優しい本心が怒りに燃えるように、発言させる。
ぶんと頭を下げ、ポニーテールを大いにぴょんとさせてからヨヨコちゃんは堰を切ったかのように謝罪するのだった。

「あー、楓子! ごめんなさい! 【SIDEROS】には……ううん。私には貴女が必要だった! そんなことも忘れて勝手なことを言っちゃって……」
「ふふ~。良かったです。まだ私【SIDEROS】の、そしてヨヨコ先輩のためになれるんですね~」
「勿論! 不出来な先輩かもしれないけれど、お願い!」
「分かりました~」

そして二人に上等な笑顔が戻り、それは中々素敵な光景に思えてならない。雨降って地固まる。
雨を降らしたのはあたしだから、もっと言動に注意しなければならないなとは思うけれども、しかし彼女らの選択と感情を蔑ろにする気にはならないのだった。
こうなってまあ、良かったとして、あたしはうんうんと頷く。尊いってこういうことなのかなあ、とあたしがもぞもぞする平らな胸元をナデナデしていると。

「ナオ! あんた【SIDEROS】のメンバーにはなれないなら、ずっと【SIDEROS】のファンでいなさい! 私が活躍する姿をその目で見届けるのよっ」

なんと、ヨヨコちゃんからそんな要請。
いや、確かにあたしが【SIDEROS】メンバーではなくいちファンなのは違いなく、そしてなるべく彼女が活躍する姿をこの目にしかと映したいとは思うのだけれども。

「あ、それは無理」

途端によぎる記憶。ひとりぼっちに戻ってしまい涙目の彼女にしたもう一つの約束。
あたしにはその《《先約》》があるから、真顔でそう答えるしかなく。

「どーしてよっ!」

本音すら口に出来ないあたしは、半ば理不尽にプンスカしだすヨヨコちゃんに、平謝りで対応するのが関の山だった。


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